COLUMN

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人びとがつながるためのFabrication
「作業療法」とファブリケーション-5

issued: 2018 / 08 / 20

INFORMATION

ファブラボ品川 ディレクター
一般社団法人 ICTリハビリテーション研究会 代表理事
作業療法士
林 園子

さあ、今日のお話はこちら。

#3:人びとがつながるためのFabrication

最初の回でお伝えした、私にとっての「作業療法」をもう一度ここで確認させてください。

「作業療法(Occupational Therapy)」とは、

  • 「からだ」や「こころ」に傷や障害をもち、生きる上で様々な「むずかしさ」を抱えている、あるいは抱えそうな人々に

  • その人にとって「意義のある作業活動」に「チャレンジする気持ちづくり」や「環境づくり」を本人や社会とともに行う

  • その関わりにより、その人々が「自ら学びながら、むずかしさを解決していく」ことを支える

後半に、「社会とともにおこなう」「その関わりにより」というフレーズを入れさせていただきました。
結局、社会的な生き物である私たちにとって、「人間関係」という環境に着目することなしには、作業療法のゴール達成はあり得ないということだと考えています。

それでは、Digital Fabricationが、どのようにして「人びとがつながる」に貢献していけるのかについて、お話ししてみたいと思います。
 
例として、「3Dプリンタを使って自助具をつくる」で考えてみましょう。

「考える」「つくる」でつながる

 「障害を持った方への自助具製作」の場合、「当事者」と「ニーズ」、「評価するセラピスト」と「ものづくりを実際におこなうあるいは支援する人」が少なくとも必要です。「当事者の家族」や「制作費を出す人」、補助金などが必要・適応であれば「申請する医師」「申請を受ける行政担当」などの方々ももしかして関わりが必要かもしれません。全ての関わる人が協力しあえないと、「本当に必要な自助具」にはたどり着けません。

 初めて会った人に「当事者」が本当の「ニーズ」を語れることはごく稀です。当事者自身も気がついていなかった潜在的ニーズをICFに照らしあわせて探り、「環境」や「身体・精神機能」「個人の想い」に即し尚且つ対象者の発達・加齢プロセスに於いて合理的な「自助具」をつくり上げる。使用時間や頻度や姿勢を考慮しながら、中・長期的に生じる付随的身体・精神リスクを評価する。最低3回は「修正・改変」が必要とされています。「自助具の消耗」や「発達」、「環境変化」に合わせて最適化を図るには、定期的評価と定期的な作り変えが必要です。「本当に必要な自助具は何か?」を考え・つくることで、「当事者」も含めた全ての関わる人がICFの理解を軸に繋がっていきます。もし「つくり手」側に「エンジニア」や「機械工作の専門家」「デザイナー」などが参画できたなら、より様々なアイディアや視点を持った人々が「当事者の本当のニーズ」によって繋がり、より社会にユニバーサルな視点が浸透していく手助けになると考えます。

思いをシェアしてつながる

 ここからがDigital Fabrication利用の素晴らしい側面です。Digital Fabricationでは、ものづくりが「データ化」されます。「データ」をシェアすれば、次に使いたい人はそれ程多くの努力を要することなく、その自助具を手に入れることができます。そして更に、そのものづくりのプロセスを「背景にある物語」とともに「記録」し、実際の「データ」を加え、インターネットを利用しその情報をオープンにして行くことで、ユニバーサルな想いが世界中に共有されます。そして、どこかで誰かの困りごとを解決していくことに繋がって行くのです。

尊敬しあってつながる

 「尊敬しあう」という考えは、インターネット上での「著作権」の考え方である「クリエイティブコモンズ」の成り立ちをなぞると、「シェアする社会」の意義とともに理解しやすいと思います。「クリエイティブコモンズと作業療法」に関しては、また後ほどまとめておしゃべりしたいと思います。
 
 ここでは、料理レシピサイト「クックパッド」を例に考えてみたいと思います。
「クックパッド」は、誰でも自身の料理レシピを記録や物語とともに公開できます。そのレシピを参考に作った別の人が、「自分は、この部分をこうアレンジしたら、こんな感じで仕上がった」を更にそれぞれの物語に載せて、感謝の言葉とともに「レポート」できる仕組みがあり、多くの人が利用しています。

 この「つくレポ」は一手間かかるのですが、元の「レシピ」を公開した人にとっても、レポートした人にとっても「達成感」を伴う宝物になります。「想い」を物語や感謝の言葉とともにまとめ、レポートすることは、お互いにとって多くの気づきの元になり、より優れたレシピづくり、より地域性や個性に合わせたものづくり文化を創造する原資になります。

 Digital Fabricationで作った自助具の物語レシピを、データとともにシェアする。そのデータを利用する人はその「想い」を引き継ぎ「尊敬しあう」態度をインターネットに載せることで、出来上がった「自助具」は時空を超えて、更に優れた役立つ「自助具」となり、使う人々の「文化」づくりと「想いの良循環」づくりに繋がっていくと考えます。

まとめ

ここまで、「作業療法」とファブリケーションの以下の3つのカテゴリについてお話ししてきました。
#1:創作や表現活動を楽しむためのFabrication
#2:環境の工夫の一環としてのFabrication
#3:人びとがつながるためのFabrication
 
いかがでしたでしょうか?
ここで一旦まとめてみたいと思います。

 「時空を超えて、”もの”も”人々の想い”も良循環をもたらすものづくりを促進する」ことは、全体としての「サスティナビリティ」にも繋がって行くものであると考えます。「個々の環境に最適なものを一つだけつくる」態度は自ずと、周囲の自然環境と調和の取れた生き方・態度に繋がり、「地球とともに健康になる」より合理的な「作業」へと繋がっていくのではないでしょうか?
 「当事者」やそれを取り巻く「環境」をより大きな視点で捉え、古来から人びとが行ってきた「つくること」の意義を現代の環境で最適化する方法を、他職種と共に考察し実行できるかどうかは、私たち作業療法士にとっても大切な課題であると考えます。